消し炭を、燃やしきる前に取り分けておくようになった|灰にする前に、止める技術があった
焚き火を灰になるまで燃やしきるのをやめて、途中で火を止めるようになった。
消し炭は、次に焚きつけとして使えると知った。
焚き火の後片づけで、いつも最後まで燃やしきっていた。
白い灰になるまで待って、冷めたら片づける。
それが正しい終わり方だと思っていた。
板場で教わったのは、逆の考え方だった。
燃やしきらず、途中で止める
炭を使う店で、閉店間際にまだ赤い炭が残っていることがあった。
このまま燃やしきってしまえば灰になって終わりだが、先輩は違うことをした。
火消し壺に入れて、酸素を断って火を止めていた。
翌朝、壺を開けると、真っ黒に焼き締まった炭が残っている。
これが消し炭で、まだ中に燃える力を持ったまま火を止められた炭のことだった。
灰は燃え終わったあとに残るものだが、消し炭は燃える途中で止めたものだから、次にまた燃やせる。
灰にするまで待つのは、いちばん手間のかからない終わらせ方だった。
途中で止めるほうが、実は一段よけいな仕事だった。
畑では、砕いて土に混ぜる
畑をやっていた頃、消し炭を砕いて土に混ぜることがあった。
灰は成分(カリ分や石灰分)で土を変えるのに対して、炭のほうは形そのもので土を変える。
細かい穴だらけの構造が土の中に隙間を作り、水はけと通気を助ける。
同じ「燃えたもの」でも、灰と炭とでは効き方の種類が違っていた。
畑では、灰は「与える」もの、消し炭は「混ぜて空気の通り道を作る」もの、という感覚で使い分けていた。
車では、消臭剤としてただ置いておく
長距離の仕事をしていた頃、車の中に小さな布袋に入れた消し炭を置いていたことがある。
燃やすでもなく、何かに使うでもなく、ただ置いておくだけ。
においを吸うという意味では、乾かしただけの木炭でも似た働きをする。
靴箱や冷蔵庫の脱臭剤に消し炭が使われるのも、同じ理屈だと後から知った。
キャンプでは、次の自分に渡すもの
いまは焚き火の終わりに、火消し壺を使うようになった。
すべて灰にしてしまうと、次のキャンプはまた薪や炭を一から買うことになる。
途中で火を止めておけば、乾かして持ち帰った消し炭は、次に焚きつけとして使える。
着火剤ひとつぶんくらいの手間が、次の自分のために浮く。
焚き火の煙がいつも自分のほうに来る、という話を前に書いたけれど(焚き火の煙は、いつも僕のほうに来る。ずっと風のせいだと思っていた)、あの煙も、灰になるまで燃やしきる過程で出ているものだった。
途中で止めれば、煙を浴びる時間そのものも短くなる。
止めることも、燃やすことと同じくらい技術だった
灰の話を書いたとき(焚き火の灰の捨て方|畑をやっていた頃は、これを捨てるという発想がなかった)、灰は「終わったあとに残るもの」だと書いた。
消し炭は、その手前で意図的に止めたものだった。
燃やしきるのは簡単で、待っているだけでいい。
途中で止めるのは、まだ使えるうちに火から離す判断がいる。
片づけながら、これは焚き火だけの話じゃないなと思った。
終わるまでやりきることと、まだ使えるうちに手を止めておくことは、どちらも技術で、どちらか一方が正しいわけじゃない。
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