雨の音を聞いて、屋根の素材を当てる癖がついた
雨が降っている、とまず思う。
次に、これはテントの音じゃないな、と思う。
夜中に目が覚めて、しばらく天井を見ていた。
雨が降っている。
音を聞いて、ああ、これはテントじゃないな、と思ってから、自分が家の布団の中にいることをようやく思い出した。
雨の音というのは、落ちてくる雨のほうではなく、受けているもののほうが鳴っている。
そのことに気づいてから、音だけで屋根の素材を当てる癖がついた。
屋根が違うと、雨は別の音になる
テントの雨は、細かくて速い。
生地が薄いぶん、粒のひとつひとつが分かれて聞こえる。
強くなると音の隙間がなくなって、砂が流れているような一続きの音に変わる。
タープはもっと低い音だ。
張った面が大きいぶん、太鼓に近い。
真ん中に水が溜まりはじめると音が鈍くなるので、そろそろ下から叩いて落としに行く時間だと分かる。
車の屋根は、重い。
鉄板の上に落ちて、そこで止まる音がする。
トラックで走っていた頃、車内で仮眠しているとこの音がいちばん近くにあった。
不思議なもので、あれだけうるさかったはずなのに、あの音でよく眠れていた。
いちばん好きなのは、木の下だ。
葉に当たった雨は、そこから落ちるまでに間がある。
だから降りやんだあとも、しばらく降っている音だけが続く。
空を見上げると晴れているのに、まだ雨の中にいる。
雨宿りは、待つことだと思っていた
走る仕事をしていた頃、雨は敵だった。
予定が狂うし、荷物は濡らせないし、視界も効かない。
止むのを待つのは負けたような気がして、たいてい走り続けていた。
いまは逆になった。
雨が来たら屋根のあるところに入って、止むまで何もしない。
予定は動かせばいいし、動かせない予定はそもそも入れなくなった。
面白いのは、待っているあいだが退屈じゃないことだ。
音を聞いているだけで時間が過ぎる。
何かしていないと落ち着かない性分のはずなのに、雨の日だけは何もしていられる。
あれは何なんだろう、といまだに思う。
濡れないための道具は、結局ひとつでいい
雨具はひととおり試した。
傘は、両手がふさがるのと風に弱いのとで、外ではあまり使わなくなった。
ポンチョは着るのが楽だけれど、しゃがむと裾から入ってくる。
いまは上下に分かれたものを一組だけ積んでいる。
蒸れるという不満はあるが、背中に通気の入っているものを選べばだいぶましになる。
高いほうがいい、というより、着るまでが早いほうがいい。
出すのが面倒な雨具は、結局着ないまま濡れる。
荷物のほうは、袋に入れて口を巻いてしまう。
あとから拭くより、最初から水が入らないようにするほうが早い。
これは何度か濡らしてから覚えた。
屋根を自分で張るなら、タープが一枚あると雨の日がまるごと変わる。
僕はあれを日除けではなく、雨のために買った。
張ったところだけ音が変わるのが、いまだに少し面白い。
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止んだあとの匂いだけは、まだ言葉にできない
雨が上がったあとの匂いがある。
アスファルトのところと、土のところではまるで違う。
それについては前に書いたので繰り返さないけれど、あの匂いは音より説明しにくい。
音は、聞けば当てられる。
屋根の素材も、雨の強さも、たぶん降りはじめか降り終わりかも分かる。
それだけ聞いてきたはずなのに、匂いのほうはいまだに「雨の匂い」としか言えない。
分かるようになったことと、分からないままのことが、同じ雨の中に並んでいる。
それが少し嬉しい。
全部説明できてしまったら、次の雨を待つ理由がなくなってしまう。


