2026.09.15 泊まれる場所4,223 立ち寄りスポット46,522 営業中を確認したキャンプ場1,005 note を読む

魚の皮を引く練習だけ、しばらくやらされた。皮は捨てるところだと思っていた

外側にあるものは、中身より大事ではない。
そう思い込んでいたことに、四つの場所で気づかされた。

板場に入って半年ほど経った頃、しばらく皮を引く練習ばかりやらされた時期がある。
おろした魚を横に置いて、まな板の上で身と皮を分ける、あれだ。

正直に言うと、意味が分からなかった。
皮なんて最後は捨てるところなのに、どうしてここだけこんなに時間をかけるのだろうと思っていた。

いまはもう板場にはいないけれど、皮という言葉を聞くと、あの時間のことをまず思い出す。

皮を引くのは、皮を取る作業ではなかった

やってみると分かるのだが、皮を引く練習で見られているのは皮ではない。
引いたあとの身のほうだ。

下手に引くと、身のほうに皮が薄く残る。
逆に力を入れすぎると、皮に身が乗って持っていかれる。
どちらも、まな板に置いた瞬間に見て分かる。

つまり皮は、自分の手加減がそのまま出てくる紙のようなものだった。
先輩が「もう一枚」と言うのは、皮を取れと言っているのではなくて、同じ加減を何度でも出せるようになれ、という話だったのだと思う。

それと、皮そのものを捨てなくなった。
焼けば香りが立つし、湯をかけて締めれば刺身の一種になる。
捨てるところだと思っていたのは僕の都合で、魚の側からすれば、いちばん外で身を守っていた部分だ。

畑に入ってから、皮を剥くのをやめた

農業をやっていた頃、皮に対する態度がひっくり返った。

採ったばかりの人参や大根を洗っていると、皮というほど厚いものが無い。
泥がついているだけで、こすれば下から地の色が出てくる。
そこを律儀に剥いていると、身のほうがどんどん細くなっていく。

店で売っている野菜の皮が厚く感じるのは、収穫から時間が経っているからだ。
外側から水が抜けて、その分だけ硬くなる。
硬いから剥く。
剥くから、剥くのが当たり前になる。

あの頃から、家では人参もじゃがいももほとんど剥かなくなった。
ただ、これは新しい野菜が手に入るときの話で、しばらく置いた芋は素直に剥いたほうがうまい。
剥くか剥かないかを決めているのは野菜の種類ではなくて、その野菜が採られてから何日経っているか、だと思っている。

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革は、育つ皮だった

焚き火で使っている手袋が、たぶんいま僕の手元でいちばん長く使っている道具だ。
買ったときはごわごわして指が曲がらなかったのに、いまは手の形に沿って勝手に折れる。

この手袋を見ていると、革というのは死んだ材料ではなくて、皮のまま持ち歩いているのだな、と思う。
火に近づけると乾く。
乾いたまま放っておくと割れる。
たまに油を入れてやると、また柔らかくなる。

面白いのは、手入れをした革ほど汚れて見えることだ。
色は濃くなるし、皺も深くなる。
新品のほうがきれいなのは間違いないのに、使いやすいのは汚れたほうだ。

魚の皮も、野菜の皮も、革も、外にあって中を守っているという点では同じことをしている。
守っているものは、たいてい傷んで見える。

まる子の皮膚のことで、獣医に叱られた

うちのまる子は、ロングコートチワワの十二歳。
若い頃から皮膚が弱くて、夏になると決まって背中を掻く。

何年か前、良かれと思って洗う回数を増やしたことがあった。
そうしたら、かえって悪くなった。
獣医に言われたのは、洗いすぎると皮膚の表面にあるはずのものまで流れてしまう、という話だった。

あのとき初めて、皮膚は覆いではなくて働いている場所なのだと分かった。
きれいにすれば良くなるというのは、汚れが原因のときにしか成り立たない。

いまは回数を減らして、その代わり乾かすのを丁寧にしている。
濡れたまま毛の中に湿気が残るのが、たぶんいちばん良くない。
このあたりは、道具を濡れたまましまうと駄目になるのと似ている気がする。

皮は、外側だから捨てていい部分ではなかった

並べてみると、僕はどの場面でも同じ勘違いをしていた。
外側にあるものは中身より大事ではない、と思い込んでいた。

魚の皮は、引き方に腕が出る。
野菜の皮は、剥くほど身が減る。
革は、手入れした分だけ手に馴染む。
犬の皮膚は、洗いすぎると弱る。

どれも、外側にあるからこそ環境と直接やり取りしている部分だった。
中身を守るために、いちばん先に痛む場所を引き受けている。

皮を引く練習を延々やらされた理由は、いまでも先輩に聞いたことがない。
聞いても「そういうもんだ」で終わっただろうと思う。
ただ、あの練習で身についたのは皮の扱いではなくて、外側を見れば中の仕事が分かる、という見方のほうだった気がしている。

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