網は、通すものより通さないものを決めている。目の大きさを間違えて、何度も落とした
焚き火の網に載せた玉ねぎが、半分ほど下に落ちて炭になっていた。
網が悪いのではなく、目の大きさの意味を分かっていなかった。
焚き火の上に網を渡して、切った野菜を並べた。
しばらくして戻ったら、玉ねぎの輪切りが半分ほど下に落ちて、炭の上で黒くなっていた。
網が悪いわけではない。
目が粗かっただけだ。
そして僕は、その網を「載せるための道具」だと思って買っていた。
網は、載せる道具ではない。
何を落として何を残すかを決める道具だ。
目の大きさが、その全部を決めている。
ざるは、残すためではなく落とすための道具だった
板場に入ってすぐの頃、ざるを何種類も使い分ける意味が分からなかった。
穴が空いた入れ物なら、どれも同じだろうと思っていた。
教わったのは、ざるは残すために使うんじゃない、という話だった。
目の細かいざるで出汁をこすと、濁りのもとになる細かい屑が下に落ちない。
下に落ちてほしいのは澄んだ汁のほうで、落ちてほしくないものを目が止めている。
粗いざるは逆で、水を早く切りたいときに使う。
細かいざるで野菜の水を切ると、いつまでも水が抜けない。
抜けてほしいものが抜けないと、そのあとの味付けが全部ずれていく。
どちらが上等という話ではなかった。
何を通したいのかが先にあって、目の大きさはその答えとして決まる。
焼き網の目は、落ちるものを決めている
外で使う網も同じだった。
目の細かい網は、切った野菜や小さい魚が落ちない。
そのかわり火の当たりが弱くなって、下から炙っている感じが出ない。
網が受け止めているのは食材だけではなくて、熱もいくらか止めている。
太い線でできた粗い網は、その逆になる。
火はよく通るし、線が太いぶん焦げ跡がしっかり付く。
ただ、載せるものを選ぶ。
僕が玉ねぎを落としたのは、この種類の網に、この網が受け止められない大きさのものを載せたからだった。
いまは二枚を車に積んでいる。
肉と大きい野菜は粗いほうへ、小さいものと魚は細かいほうへ。
替え網は消耗品だと割り切って、使い捨てのものを何枚か重ねて入れてある。
焼き網は洗うのがいちばん面倒な道具で、面倒なものは減らすより増やしておいたほうが結局は楽だった。
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畑では、網は入れないための壁だった
畑をやっていた頃、網はまったく別の顔をしていた。
通すための道具ではなく、入れないための壁だった。
鳥よけの網は、目が粗いと小さい鳥が抜けてくる。
細かくすると今度は風を受けて、支柱ごと倒れる。
虫よけの網はもっと厳しくて、目を細かくすればするほど中の風が止まり、暑い日に葉が蒸れて先にだめになった。
守るために張ったものが、守りすぎて別の形で作物を弱らせる。
このときに、通さないものを決めるということは、同時に通したいものまで止めることなんだと分かった。
網の目は、両方に効く。
片方だけ都合よく止めることはできない。
網戸の目は、風も止めていた
車の窓に張る網も、結局は同じ話だった。
目を細かくすれば小さい虫は入ってこないが、夜の風がほとんど入らなくなる。
虫は入らないのに暑くて眠れない、という夜を何度か過ごした。
いまは、止めたいものの大きさから逆算して選んでいる。
山の中で本当に困るのは、蚊よりもっと小さいやつだ。
あれを止めるには細かい網が要るし、細かい網を張るなら風は別の手段で作るしかない。
これも二者択一ではなくて、網に全部やらせようとするのが間違いだった。
止めるのは網、動かすのは別のもの。
そう分けてから、夜がだいぶ楽になった。
通さないものを、先に決める
四つ並べてみて、自分でも意外だったのは、どの場面でも先に決めていたのが「通したいもの」ではなかったことだ。
出汁のときは濁りを止めたかった。
畑では鳥と虫を止めたかった。
車では小さい虫を止めたかった。
止めたいものが決まると、目の大きさは自動的に決まる。
決まったあとで、通したかったものが通らなくなっていないかを見にいく。
順番はいつもこれで、逆から入ると失敗する。
網を選ぶときに、目の大きさが書いてある商品はそんなに多くない。
太いか細いか、しっかりしているかどうかで選んでしまいがちだ。
僕もずっとそうやって選んでいて、そのたびに何かを落としたり、何かを止めすぎたりしていた。
網は、穴だらけの道具だ。
穴だらけなのに役に立っているのは、穴の大きさが決まっているからで、そこだけが全部だった。