流れ星を見るのに要るのは、道具ではなく寝転がる場所だった
今年は、いちばん多い夜に月が出ない。
首が痛くならない体勢さえ作れば、あとは待つだけだと思う。
八月に入ると、夜の予定をひとつだけ空けておく癖がある。
天気に賭けているので、当たる年も外れる年もある。
それでも一年に一度くらい、何もせずに空を見ている時間があってもいいと思っている。
今年はペルセウス座流星群の条件がいいらしい。
国立天文台によると極大は八月十三日の十一時ごろで、見ごろは十二日の夜から十三日の未明、それと十三日の夜から十四日の未明の二晩。
十三日が新月にあたるので、月明かりの影響をまったく受けないという。
数もそこそこ多い。
十三日の夜明けのころで一時間に三十五個ほど、十四日の夜明けのころで三十個ほどと出ていた。
一時間に三十五個ということは、だいたい二分に一個。
その数字を見て、待てる長さだなと思った。
道具はいらない、というのは本当だった
最初のころ、双眼鏡を持っていったことがある。
結果から言うと、あれは邪魔だった。
のぞくと視野が狭くなる。
流れ星は空のどこに出るか分からないので、狭いところを見ているあいだに外で流れる。
倍率を上げるほど不利になる、という珍しい相手だと思う。
だから見るのは肉眼で、しかも一点を見つめない。
ぼんやり空の広いところを眺めていると、視界のはしを何かが横切る。
「あ」と言ったときにはもう無い。
その頼りなさが、たぶんいちばんいいところだ。
だいたい、首で終わる
立って見上げていると、十分ももたない。
首の後ろが張ってきて、そのうち下を向いて休むようになる。
休んでいるあいだに流れて、また上を向いて、また疲れる。
寝転がると、これがぜんぶ消える。
首を使わずに空の真ん中が見えるので、そのまま一時間でもいられる。
流れ星を見に行って持ち帰るものが「首の痛み」なのは、さすがにもったいない。
敷くものは、思っているより厚いほうがいい。
夏でも夜の地面は冷たくて、薄い一枚だと三十分で背中から冷える。
寝袋の下に敷くようなマットがあれば、それがいちばん確実だと思う。
椅子で見るなら、背もたれが倒れるものでないと結局おなじことになる。
座面の高さより、どこまで寝かせられるか。
ふだんの食事用と兼ねようとすると、たいてい角度が足りない。
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目が慣れるまで、十五分
暗いところに出てすぐは、ほとんど何も見えない。
十五分くらい経つと、さっきまで無かった星が湧いてくる。
あれを初めて体験したときは、空が変わったのだと本気で思った。
そして、その十五分はスマホの画面ひとつで振り出しに戻る。
時間を確かめるつもりで見て、また最初から慣らし直しになる。
灯りをつけるなら弱いものを、下に向けて。
トラックで走っていたころ、山の中で車を停めて外に出ると、街では見たことのない数の星が出ていることがあった。
当時は「きれいだな」で終わっていて、腰を落ち着けて見ようとは思わなかった。
眠ることのほうが大事だったから、たぶんそれでよかった。
いまは同じ空を、寝転がって見る側に回っている。
三回は、どうやっても言えない
流れ星が消えるまでに願いごとを三回言えば叶う、という話がある。
あれを本気で試したことがあるだろうか。
無理だと思う。一回言い終わる前に消える。
叶わないようにできている遊びなのに、だれも文句を言わない。
たぶん、願いごとの中身より「いま何を願うつもりだったか」が分かるほうが面白いからだと思う。
とっさに出てくるものが、その年の自分の答えなのだろう。
今年は十二日か十三日の夜に、車で少し暗いところまで出るつもりでいる。
曇ったらそれまでで、そのときは家に帰ってビールを飲む。
それはそれで、悪くない夜だ。
参考にした数字は国立天文台のペルセウス座流星群が極大(2026年8月)から。