2026.09.15 泊まれる場所4,223 立ち寄りスポット46,522 営業中を確認したキャンプ場1,005 note を読む

手を見れば何をしてきた人か分かる、と言われたことがある

褒められたのか気の毒がられたのか、いまだに分からない。
ただ、僕の手がよく喋るのは本当だと思う。

ずいぶん前、初対面の人に手を見られて「ああ、何かされてた人ですね」と言われたことがある。
褒め言葉のつもりだったのか、気の毒がられたのか、いまだに分からない。
その場では笑ってごまかしたけれど、家に帰ってから自分の手をしばらく眺めた。

水の冷たさを覚えている手

寿司屋にいた頃、冬の手は年中どこかしら切れていた。
米を研ぐ、魚を洗う、まな板を流す。
一日じゅう水に触れていて、しかも温い湯は使えない。
ぬるい水はネタを傷めるから、冷たいまま扱う。

指の関節のところが割れて、包丁を握ると開く。
ばんそうこうを巻くと感覚が鈍るので、みんな巻かなかった。
いま思えばずいぶん乱暴な話だけれど、あの頃は手が荒れていることのほうが普通で、きれいな手のほうが落ち着かなかった。

土は洗っても、しばらく残る

畑をやっていた時期の手は、また別の荒れ方をした。
水ではなく、乾きで荒れる。
土は思っているよりずっと水を吸うから、素手で触っていると指の水分を持っていかれる。
夕方に手を洗っても、爪のふちの黒いところは何日か残った。

あれが嫌でたまらない人もいるだろうけれど、僕はそんなに嫌いではなかった。
その日どこで何をしていたか、手を見れば思い出せる。
記録を付けなくても、手のほうが覚えていてくれる。

ハンドルは、握った場所だけ硬くなる

長距離を走るようになってからは、荒れ方がまた変わった。
手のひらの、ハンドルの下側を持つあたりだけが厚くなる。
十時間握っていると、そこだけ皮膚が守りに入るらしい。

運転の手は、切れたり割れたりはしない。
そのかわり、乾く。
エアコンの風がずっと当たっているからだと思う。
休憩所の洗面台でハンドクリームを塗るようになったのは、この頃からだ。
トラックの運転席にひとつ置いておくと、着いてから荷物を降ろすときに指が引っかからなくて助かる。

いまの手は、たぶんいちばんきれいだ

ここ何年かはキーボードを叩いている時間が長い。
水にも土にも触らないから、手は荒れない。
初対面の人に何かされていた人ですねと言われることも、もうないだろうと思う。

それが少し寂しい、と書くときれいにまとまるけれど、正直そこまでではない。
痛くない手は単純にありがたい。
ただ、焚き火をいじって薪を運んだ翌日に手のひらがひりひりしていると、妙に落ち着くのも本当だ。
たぶん僕は、手が何かを覚えている状態のほうが安心するのだと思う。

いまは道具に頼っている。
薪や熱いものを触る日は素手でやらない。
手が丈夫だった頃の癖で軍手ひとつで火に近づいて、指先を焦がして懲りた。
夜に塗るクリームと、持ち歩く小さいのと、火のまわりで使う手袋。
この三つが、いまの僕の手の面倒を見てくれている。

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手はよく喋る、と思う。
話したくないことまで喋ってしまうのが困りものだけれど、見せて困るような手ではないので、まあいいことにしている。

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