スマホに打ち込んだメモだけ、どうしても思い出せない

親指で打つのをやめて、胸ポケットに小さなノートを戻した。
書いた場面ごと覚えているのが、自分でも不思議だった。

信号待ちのあいだに、ふっと何か思いつくことがある。
忘れないうちにと親指でメモを打ち込んで、青になったら発進する。
その繰り返しを、何年かやっていた。

ある日、そのメモを頭から読み返してみた。
半分くらいは、何の話だったのかまるで分からなかった。

手で書いたほうだけ、場面ごと残っている

不思議なのは、同じようなことを紙に書いたときには、けっこう思い出せることだ。
字が斜めに流れていれば、急いでいたんだなと分かる。
隅のほうに小さく書いてあれば、たぶん誰かと話しながら書いている。

スマホのメモは、どれも同じ顔をして並んでいる。
文字の大きさも行の間隔も全部いっしょだから、手がかりが本文の中にしかない。
僕はどうやら、書いた内容より「どんなふうに書いたか」のほうで覚えているらしい。

大きいノートを持つと、書かなくなる

いい紙のノートを買って、ほとんど白紙のまま一年が過ぎたことが何度もある。
大きいと、きれいに書こうとしてしまう。
きれいに書こうとすると、手が止まる。

いまは胸ポケットに入るくらいの小さいのを使っている。
一ページが小さいから、三行も書けば埋まる。
埋まると、なぜか次のページに進みたくなる。
この「すぐ埋まる」が効いているのだと思う。

表紙が硬いと、立ったまま書ける

選ぶときに効いてくるのは、実は表紙の硬さだった。
ぐにゃりと曲がるタイプは、机がないと書けない。

もともと屋外で測量をする人が使っていたものは、表紙が板のように硬い。
片手で持って、そのまま立って書ける。
車の脇でも、焚き火の前でも、姿勢を変えずに書き足せるのがありがたい。

中身が方眼になっていると、字も図もどちらもいける。
地図みたいなものを描き殴るときに、これがずいぶん効く。
値段も一冊数百円なので、汚す前提で持ち歩ける。

楽天で人気の小さなノート

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スマホをやめたわけではない。
予定と買い物のリストは、いまも全部そちらに入っている。

ただ、あとで自分が読み返して何かを思い出したいものだけは、手で書くようにした。
忘れてもいいことと、忘れたくないことを、道具のほうで分けている感じがする。
うまく言えないけれど、この分け方はしばらく続きそうだ。

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