知らない土地のラジオを、つけっぱなしにして走っている
長い距離を走る日は、音楽を止めてラジオに変える。
その土地の人にしか届いていない声が、車の中に流れ込んでくる。
高速を降りて、知らない県道を走っているとき。
僕はたいてい、音楽を止めてラジオに変える。
スマホには聴きたい曲がいくらでも入っているのに、なぜかそうしたくなる。
たぶん、自分で選んでいない音が聴きたいんだと思う。
その土地の人にしか届いていない声
地方のFMは、驚くほど生活に近い。
今夜の花火大会の駐車場がどこか、明日の朝は霧が出るかもしれない、あの峠はいま片側通行だ。
全国向けの番組では流れない話が、ふつうの顔で流れてくる。
電話をかけてきたおじさんが、畑の話を延々としていたこともあった。
パーソナリティも困りながら相づちを打っていて、僕は運転しながら笑っていた。
その土地の空気は、景色より先に音で入ってくるのかもしれない。
電波が弱くなる瞬間がいい
山あいに入ると、声が砂に埋もれていく。
少し進むと戻ってきて、トンネルで完全に切れる。
この不安定さが、僕はきらいじゃない。
いつでも同じ品質で届くものに慣れすぎて、届かないことがある音の贅沢さを忘れていた気がする。
受信できる範囲にいる、というだけで、少しその土地とつながっている感じがする。
夜のAMは、距離が伸びる
日が落ちてからのAMは、電波が遠くまで届く。
山の駐車場に停めて、まったく知らない都市の放送を拾ったことがあった。
聞いたこともない地名の交通情報を、自分とは関係のない場所の話として聞いている時間。
あれはちょっと不思議な心地よさだった。
スマホでもラジオは聴ける。
ただ、通信が切れる場所ほどラジオの出番なわけで、それなら小さな受信機を一台積んでおくほうが理にかなっている。
防災用として売られているものが、そのまま車中泊の相棒になってくれる。
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音楽は、自分の内側を確かめる時間だと思う。
ラジオは、外側とつながる時間なのかもしれない。
次に長い距離を走る日も、僕はきっと周波数を合わせている。


